2017年7月、米ニューメキシコ州。14歳の少女が浴槽の中で感電死した。彼女は入浴中にスマホを充電しながら使っており、「延長コードを使えば入浴中でも充電できる」というメッセージを友人に送ったその1時間以内に亡くなっていた。同じ2017年、英国でも32歳男性が浴室で充電中のスマホを胸の上に載せていたことが原因で死亡し、死因審問で感電死と確定している。「お風呂でスマホ」は笑えない冗談ではなく、実際に命を奪う行為として公的な記録に残っている。

まず、結論。
入浴中のスマホ使用そのものより、「コンセントから伸びた充電器・コードが湯船の近くにある状態」が最悪の構図だ。5Vの直流は通常なら安全だが、劣化したコードや制御回路の壊れた充電器では、交流分を含んだ電流が水を通して人体に流れうる。充電中の機器を浴室に持ち込まない。これだけが防御策だ。

記録に残っている死亡事故——2つの事例の共通点

米国の14歳少女の事例(2017年)では、警察の捜査により「延長コードが傷んでいることに気づかないまま、浴槽の中にいた少女が傷んだコードに触れた」と結論づけられた。彼女の手にはやけどの跡が残っていたという。

英国の32歳男性の事例(2017年)はさらに象徴的だ。警察官の証言によれば、延長コードが廊下から浴室に伸びており、男性は充電器を胸の上に載せて浴槽に入っていた。充電器とケーブルの接続部分が水に接触したものとみられる。担当した検死官は「携帯電話もヘアドライヤーと同様、水の近くで使うのが危険だということを人々は理解していない」と懸念を表明し、メーカーへの警告表示要求まで検討したほどだ。ロシアでも2015年に同種の死亡事故が報道されている。

事例状況共通する要因
米・14歳女性(2017)入浴中に充電しながらスマホを使用延長コードの使用+劣化・破損したコード
英・32歳男性(2017)浴槽内で充電器を胸部に載せる廊下からの延長コード+水没前提の使い方
ロシア(2015)風呂での携帯電話使用報道ベースだが同型の事故

なぜ「たった5V」が人を殺せるのか——誤解されやすい電気の話

「スマホの充電はDC5Vでしょ? 感電するわけがない」という理解は、半分正しくて半分危険だ。子どもの安全研究グループの専門家による解説を整理すると、次のような構造になっている。

  • 充電器(ACアダプタ)の出力はDC5V・最大2.4A程度。通常、制御回路が過電流を防いでいるため、端末やケーブルが水に濡れても大きな電流は流れない設計である
  • しかし制御回路は壊れる。落下・経年劣化・非正規品の粗悪設計などで電流制御が機能しなくなる可能性がある
  • 問題は電圧だけでなく電流の性質だ。「交流分を含んだ直流」が水中の人体に流れると、心臓の動きに影響を与えて致命傷となる恐れがある
  • つまり事故が起きるのは「5Vだから」ではなく「制御回路が壊れた充電器+水+人体」の3点セットが揃ったとき

そして皮肉なことに、この3点セットが揃いやすい場所こそ浴室である。湿気はコードの被覆を劣化させやすく、水場では延長コードを使いたがる人が多い。さらに浴室のコンセントは漏電遮断器(感電警報機付き)が付いていない住宅もあり、最後の安全装置が働かない可能性がある。

ワンポイント
判断は一行だ。「コンセントから伸びている線が、浴槽・シャワー・洗面台のどこかに届くなら、それは届きすぎ」。充電器本体が浴室に置いてあるだけでアウト。充電は脱衣所以外で済ませる運用に変えるべきだ。

日本国内で起きている「一歩手前」の事故

幸いにも国内で浴室充電の死亡事故は確認されていないが、消費者庁と国民生活センターには充電器絡みの事故が継続的に寄せられている。医療機関ネットワークや事故情報データバンクに登録された事例を見ると:

  • 1歳児が充電ケーブルの端子をコンセントに差し込み、手のひらが黒くなる電撃傷(2024年公表)
  • 寝ていた乳児の肌に充電ケーブルの端子が接触し続け、胸部をやけどして皮膚が剥がれた(0歳8カ月)
  • 1歳児がACアダプターとUSBケーブルを触った直後、ACアダプターが溶けて周囲を焼損する火災——調査では端子部近傍に歯形のような痕跡があり、唾液等の導電性異物の侵入が疑われた

つまり国内でも「水気・唾液・汗 × 充電器の端子」という組み合わせで電撃傷・化学やけど・火災が現実に起きている。浴室はそのリスクが極大化される場所にすぎない。

充電器の選び方——「買わない」選択肢を含めて

浴室で使わないのが大前提だが、それでも充電器自体の品質は重要になる。選定基準はこうだ。

  • 【認証】菱形PSEマークと定格(出力V/A)が本体に印字されているPSEなし充電器は電安法違反品。制御回路の信頼性も含めて検査外
  • 【価格】有名メーカー純正品または実績ある第三者品のみ数百円のノーブランド充電器は、制御回路の削り込みを疑え
  • 【状態】被覆の傷・折れ曲がり・差し込みの緩みがあるコードは即廃棄米国の少女事故の直接原因は「傷んだコード」だった
  • 【環境】浴室・洗面台・キッチン水場に延長コードを這わせない延長コードは両方の事故例に登場した共通アイテムだ
  • 【習慣】充電は寝室・リビングなど水場から離れた固定場所で「充電スポット」を家の中で決めてしまうのが最も簡単な対策

PSEマークの見分け方や偽造マークの問題についてはモバイルバッテリーの警告記事で詳述している。考え方は充電器も完全に同じだ。携帯扇風機の記事で触れた「連絡先不明商品」の話も同様に充電器へ当てはまる——事故っても相手が存在しない製品は、最初から買わないことだ。

もう一度、距離の話をする

電気と水の安全距離について、規格上の明確な数値を家庭で求めるのは難しい。だからこそ判断基準はシンプルにするしかない。湯船に浸かった状態で手を伸ばしても、充電器・コード・コンセントのどれにも触れない配置——これを満たせなければ、その充電は今日から別の場所に移す。少女が友人に送った最後のメッセージには「バスルームはシャワーのための場所。電話を持ち込む場所ではない」「電気と水を一緒にしてはいけない。たった1滴でさえも」とあった。遺族が公開したこの言葉以上に正確な安全基準はない。

よくある誤解に答える

Q. スマホ本体が防水対応なら安全では?
A. 防水性能が守るのは端末内部であり、あなたの身体ではない。事故の起点は端末ではなくコンセント側の充電器とコードだ。防水スマホをお風呂で使うこと自体より、「コンセントにつながった線が浴室にある」状態が致命的なのである。

Q. ACアダプターを使わずモバイルバッテリーで充電すれば?
A. 改善にはなるが解決ではない。モバイルバッテリーも制御回路の壊れた製品・劣化品は同様のリスクを抱える(PSEなしモバイルバッテリー記事参照)。そもそも湯船の近くに電源装置がある状況そのものを消すのが本質だ。

Q. 浴室コンセントに付いているカバーで防げない?
A. カバーは子どもの誤挿入防止には有効だが、延長コードを這わせる使い方や濡れた手での操作までは防げない。日本の住宅では浴室のコンセント回路に感電警報機(漏電遮断器)がない場合もあり、最後の安全装置が存在しない前提で距離を確保すべきである。

まとめ: 「防水スマホ」だから安全、ではない

最近のスマートフォンは多くが防水対応だ。「スマホは防水だからお風呂でも平気」という理解が広がっている一方で、事故の本質はスマホ本体ではなくコンセントにつながった側にある。防水性能は端末を守るものであって、あなたを守る保証ではない。

最後におさらいを。充電中の機器を浴室に持ち込まない / 延長コードを水場に這わせない / 傷んだコード・変形した端子は即廃棄 / PSEマークと定格のある充電器だけ使う / 充電スポットを家の中で固定する。——お風呂でのSNSは、人生で一番高い投稿になる可能性がある。距離ゼロを作らない、それだけの話だ。